気候関連金融リスクのバーゼル規制上の取り扱い
-提案されたプリンシプル・ベースの監督・規制の枠組み-

小立 敬

要約

  1. バーゼル委員会は2021年11月、銀行および監督当局を対象とする気候関連リスクの管理・監督に関するガイドラインとして、「気候関連金融リスクの実効的な管理と監督のための諸原則」の市中協議文書を公表した(以下、「諸原則案」)。今後、バーゼル委員会から示された諸原則に基づくプリンシプル・ベースの下、各国・地域の銀行監督・規制の枠組みの中で気候関連金融リスクに係る監督・規制対応がさまざまな態様で導入されることが想定される。
  2. バーゼル委員会による気候関連金融リスクへの取組みとしては、2021年4月に気候リスク・ドライバーが銀行にどのように影響するのかを特定する気候関連金融リスクの銀行への波及経路に関する報告書を策定している。報告書は、気候リスク・ドライバーが銀行にリスクをもたらすメカニズムについて、(1)気候リスク・ドライバー、(2)波及経路、(3)変動要因、(4)金融リスク、(5)バーゼル規制という概念を用いて整理を行っている。
  3. 一方、諸原則案は、気候関連金融リスクの管理について、(1)コーポレート・ガバナンス、(2)内部統制フレームワーク、(3)自己資本・流動性充足度、(4)リスク管理プロセス、(5)経営によるモニタリング、レポーティング、(6)信用リスクの包括的管理、(7)マーケット、流動性、オペレーショナル、その他のリスクの包括的管理、(8)シナリオ分析に関して原則を定めている。また、気候関連金融リスクに関する監督については、(1)銀行プルーデンス規制・監督の要件、(2)監督当局の責任・権限・機能について原則を規定している。
  4. 欧州では、気候関連金融リスクを銀行監督・規制に組み込む動きが進む一方、日本ではどのように組み込まれるのかは明らかではない。まずは、諸原則案の最終化を見届けた後、気候関連金融リスクに関する管理・監督のあり方について金融庁の方針を確認する必要があるが、どのような気候関連金融リスクが自行に存在し、どのリスク・カテゴリーに影響するのかといった検証に銀行が着手する時期が近づいてきたことを示唆しているように窺われる。
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