信用格付におけるESGスコアの事例
-Moody's, S&Pが順次公表、評価に差異も-

野村證券IBビジネス開発部(野村資本市場研究所 野村サステナビリティ研究センター 客員研究員)今川 玄

要約

  1. 信用格付会社が格付におけるESG(環境、社会、ガバナンス)要素の影響について個別発行体のスコアの公表を順次進めている。Moody'sは2020年5月以降、ESGへのエクスポージャーの大きい業種から公表を始め、事業会社、金融機関に加えソブリンや地方自治体といった公共セクターまで含めている。S&Pも同年10月以降公表を開始し、電力・ガスといったユーティリティや自動車、石油・ガス、医薬、運輸等々矢継ぎ早に対象業種を広げている。
  2. MSCI、サステナリティクスといったESG評価機関の格付・スコアと比べた特徴として、信用格付会社のESGスコアは信用力に影響を与える要素だけに絞った点が挙げられる。Moody's、S&Pいずれも5段階評価のスコアを使い、下位4以下の場合、ESG要素によって現在の格付が引き下げられていることを示している。場合によっては発行体のESGへの対応の巧拙が格付水準に響いていることも分かり、投資家にとってより有用な判断材料を提供する可能性がある。
  3. 本稿ではESG、特にEの影響を受けやすいユーティリティセクターを取り上げて、Moody'sとS&Pの評価の共通点、相違点について検証を試みている。上位企業、下位企業で概ね共通点がある一方、Moody'sの上位企業がS&Pでは中位以下にあったり、またその逆のケースもあった。信用格付の水準や格付体系(同一業種内等における各発行体の相対的位置付け)そのものには両社間で大きな差異は認められていないだけに、信用力に影響を与えるESGスコアで対象企業によって比較的大きな差異があることは興味深い。
  4. ESGスコアは格付アナリストによる「定性的」な議論を中心に決定しているという。ESGを構成する要素のどこに力点を置くかによってスコアの評価が変わってくることは、スコアの信用力への影響の確からしさを考える上でも、格付会社によるより詳細な分析の報告が待たれる。
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