炭素国境調整メカニズムを講じる欧州の動向
-国際課税を通じた気候関連の移行リスク-

板津 直孝

要約

  1. 欧州委員会(EC)は2021年7月14日、2030年までの温室効果ガス(GHG)削減目標を達成するための政策のひとつとして、「炭素国境調整メカニズム(CBAM)」規制案を採択した。CBAMは、EU域内の企業に対するGHG排出規制ではなく、いわゆる国境炭素税であり、カーボンリーケージを防止することを目的としている。
  2. EUは、世界最大の排出量取引制度(ETS)である「欧州排出量取引制度(EU-ETS)」に基づき、EU域内でのGHG排出削減を推進している。CBAMは、EU域内での排出削減努力が、炭素制約の少ない国外への産業拠点の移転や炭素効率の低い輸入品の増加を通じて、EU域外の排出量の増加によって相殺されることを回避する措置である。
  3. CBAMは、国際課税を通じた気候変動政策であり、関連企業に対する「気候関連の移行リスク」である。本格的な炭素国境調整が講じられる2026 年1月以降は、CBAMに基づく国境炭素税の納付を通じて、気候関連の移行リスクが顕在化し企業の財務に直接影響を及ぼす。CBAM対象製品に含有するGHG排出量を反映したコストが、財務情報で認識されることになる。
  4. CBAM対象の製品をEUへ輸出している企業や、EU域内の現地法人が完成品や部品の製造において原材料をEU域外から輸入している企業は、現時点で、CBAM対象製品に含有するGHG排出量が自社の財務に及ぼす影響を評価することが重要である。CBAMの導入に伴う気候関連の移行リスクが重要な影響を及ぼすと経営者が判断する場合は、経営戦略及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を非財務情報として投資家に向けて開示する必要がある。
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