気候リスクに対応する金融監督・規制の現在と将来
-バーゼルIIIはどのように対応できるのか?-

小立 敬

要約

  1. 2050年までのネットゼロを目指す気候政策に世界的な注目が集まる中で、金融機関や金融システムに影響する物理的リスクおよび移行リスクを含む気候関連金融リスクに関して、国・地域、国際的なレベルで金融監督・規制上の対応を図る動きがみられる。
  2. 金融機関に気候関連金融リスクの適切な管理を促す監督のあり方として、監督当局が金融機関の気候関連金融リスクの管理について「監督上の期待」を示し、金融機関に自発的な対応を促すという監督アプローチが欧米の監督当局などで採用されるようになってきている。
  3. また、気候関連金融リスクに対する監督アプローチとして、ストレステストも重要である。最近では、各国・地域の中央銀行や監督当局によって気候リスクを対象とする(マクロ)ストレステストが行われるようになってきている。
  4. 欧州グリーン・ディールを掲げるEUでは、気候関連金融リスクを含むESG(環境/社会/ガバナンス)に関するリスクをバーゼルIIIに反映させることについて検討が行われている。もっとも、気候関連金融リスクの計測に関しては多くの課題があることに加えて、気候関連金融リスクは短期から長期に及ぶフォワードルッキングな要素を含む一方で、バーゼルIIIの最低所要自己資本(第1の柱)は過去のデータに基づいて短期的な損失リスクを水準調整したものであり、制度設計の面で根本的なギャップがあることが指摘されている。
  5. 一方、バーゼルIIIの第2の柱を適用し、例えば、気候ストレステストによってシナリオ分析に適した気候関連金融リスクの管理を銀行に求めることも可能であろう。第2の柱はより柔軟な枠組みであるため、気候関連金融リスクの管理により望ましい手法を検討する可能性も考えられる。気候関連金融リスクに対する監督・規制の将来は、定量的評価手法の確立に向けた検討も含め、今後のさらなる議論の進展に委ねられている。
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