気候関連情報開示を要請する米国の動向
-SECが公表した特徴的な規則案-

板津 直孝

要約

  1. 米国証券取引委員会(SEC)は2022年3月、気候関連情報開示の強化と標準化を目的とした規則案を公表した。同規則案は、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言」を部分的にモデル化し、SEC登録企業に対して、年次報告書及び証券登録届出書において、気候関連の財務リスク及び財務指標の開示を義務付けるものである。
  2. 特徴的な開示要請としては、気候関連の情報開示を非財務情報に留めるのではなく、財務情報として気候関連の財務指標及び関連する開示を要請している点にある。財務情報は会計監査人による監査対象であり、監査の在り方にも影響を及ぼす可能性がある。
  3. バイデン政権はトランプ前政権による環境政策を方向転換し、気候関連政策を重視する姿勢を鮮明にしている。バイデン大統領は2021年5月、気候関連の金融リスクに関する大統領令に署名し、金融監督当局や行政管理当局へ、金融システムや連邦政府財政に及ぼしうる気候関連のリスクへの対応を命じた。SECによる規則案の公表は、大統領令を受けたものである。
  4. 温室効果ガス(GHG)排出量を最低限に抑えつつ、低炭素経済へ円滑に移行しようとする米国の動向は、企業にとって、気候変動の抑制等を目的とした政策、法規制、技術、市場及び評判上の移行リスクである。米国では、政権交代により気候関連の移行リスクが高まってきている。投資家は、大統領令に基づき策定される新たな気候関連の政策や法規制等に対して、投資先企業の経営戦略のレジリエンス(回復力)を確認する必要がある。そのために必要とされるのが、SECによる気候関連情報開示の規則の制定である。当該規則制定によって、気候関連のリスク及び機会を考慮した投資が後押しされることが期待される。
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