企業の事業・サプライチェーンと自然災害リスク
-TCFD開示に見る国内企業の対応とエンゲージメントのポイント-
富永 健司
要約
- 昨今、気候変動による風水害の激甚化や大規模地震の可能性等の観点から、日本企業が自社の事業・サプライチェーン(供給網)に影響する自然災害リスクを認識し、対応していく必要性が高まっている。国内の代表的な株価指数である日経平均株価の構成企業の事業・サプライチェーンの所在地域と当該地域の自然災害の発生状況を確認すると、同企業は多様な自然災害リスクに直面している。
- 国内企業が直面する各種の自然災害リスクの中で、国内外の企業による開示の動きが積極化している気候変動による物理的リスクへの対応にあたっては、企業は同リスクの評価・分析と共に、事業継続計画(BCP)対策強化・事業継続管理(BCM)体制構築、設備投資・在庫体制強化等を進めている。例えば、コニカミノルタ、ソニーグループ、イオン等が取り組んでいる、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進・デジタル技術導入、革新的な技術・サービスを提供するスタートアップ企業との連携等は、企業が同リスクへの対応力を強化していく上で有効な手段になると考えられる。
- 他方、気候変動による物理的リスクが拡大する中、機関投資家が進める事業・サプライチェーンに関するエンゲージメントにおいて、大規模自然災害がもたらすリスクへの注目度が高まる可能性がある。同エンゲージメントを進める際には、本文内で示した各種レポート等が示す同リスクへの対応のプロセスや具体的な戦略が参考になるものと思われる。
- 企業が先進事例の共有や投資家との対話の深化を通じて、事業・サプライチェーンにおける自然災害リスクに対処すると共に、そうした取り組みが社会全体の自然災害リスクへの対応力向上につながることが期待される。