日本国政府によるGX経済移行債の発行開始
-クライメート・トランジション利付国債の論点-

江夏 あかね

要約

  1. 日本政府は2024年2月、「脱炭素成長型経済構造移行債」(GX経済移行債)を「クライメート・トランジション利付国庫債券」(CT国債)として発行開始した。
  2. 日本では、2020年10月の「2050年カーボンニュートラル」(2050年CN)宣言以降、政府がトランジション・ファイナンス市場の発展に向けた施策を重層的に講じてきた。そして、CT国債発行に際して複数の外部評価の取得、国内外の幅広い投資家層を対象とした投資家向け広報(IR)を実施した。さらに、初回債については、海外の一部で懸念の声もあるアンモニア混焼の運営に関するものが含まれていないなどの制度設計が行われた。このような取り組みも功を奏し、国によるトランジションボンドとして世界初となったCT国債は、国内投資家を中心に概ね円滑に消化された。
  3. CT国債初回債の発行により、世界のトランジションボンドの発行残高(2024年2月末時点、約244億ドル)のうち、日本の発行体による残高は約157億ドルと、全体の6割強を占めることとなった。また、日本の発行体によるトランジションボンドの残高のうち、CT国債は7割弱を占めている。CT国債の存在感の大きさに鑑みると、金融資本市場に円滑に消化されることがトランジションボンド市場全体の発展にとって重要である。
  4. 今後、日本がトランジション・ファイナンスも活用も通じて、脱炭素社会の実現を確実に果たすためには、CT国債の円滑な消化がカギと言える。その観点から、CT国債の今後の論点としては(1)レポーティングの信頼性向上に向けて外部評価機関からの認証取得、(2)投資家層の拡大の一環としての個人向け発行、(3)償還原資の確保に向けた制度設計、が挙げられる。
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