トランジション・ファイナンスの促進に向けたASEANの取り組み
北野 陽平
要約
- 世界的に温室効果ガス排出量実質ゼロ(ネットゼロ)に向けた取り組みが強化される中、温室効果ガス排出量が多く石炭等の化石燃料への依存度が高いアジアでは近年、トランジション(移行)への関心が高まっている。排出削減が困難な企業が多く低炭素技術が十分に確立していないASEANは、より重要な役割を担っていく可能性があると考えられている。
- ASEANでは、総じてトランジション・ファイナンス市場は発展初期段階にある。しかし、近年、ASEAN資本市場フォーラム(ACMF)によりトランジション・ファイナンス促進に向けた取り組みが強化されており、「サステナブル・ファイナンスのためのASEANタクソノミー」や「ASEANトランジション・ファイナンス・ガイダンス」等が策定されてきた。
- ASEANトランジション・ファイナンス・ガイダンスでは、信頼できるトランジションの要素が明確化されるとともに、トランジションを進める事業体を分類する枠組みが示された。今後、ASEANトランジション認証制度の導入やトランジションのラベルが付与された金融商品に関するガイダンスの策定等が検討される可能性がある。
- 国別では、シンガポールが主導的な役割を担っている。シンガポール金融管理局(MAS)は、トランジション・ファイナンスを促進する上で官民連携の重要性を認識し、2023年12月にアジア開発銀行(ADB)及び人と地球のためのグローバル・エネルギー同盟(GEAPP)との間で、ブレンデッド・ファイナンスに係る協力覚書に署名した。
- 翻って、日本でも、トランジション・ファイナンスの促進に向けたさまざまな取り組みが進められている。中長期的な観点で、ASEANと日本の協力・連携が強化され、ASEANにおけるトランジション・ファイナンス市場の成長を通じて、アジア全体が脱炭素社会に確実に移行できるか、注目したい。