インパクト測定の標準化と企業価値の関係性
ーエンゲージメントに資するインパクトの定量化ー
野村證券 クオンツ・ソリューション・リサーチ部 クオンツアナリスト 倉持 純太、野村證券 金融工学研究センター長 太田 洋子
要約
- PBR(株価純資産倍率)の向上には、財務戦略によるROE(自己資本利益率)向上と、非財務戦略によるPER(株価収益率)向上の両方に取り組むことが重要と考えられる。近年、ポジティブインパクトをアウトカム(施策の成果・効果)で説明する企業が増えているが、投資家からは個社性が強く、横比較が難しい点が指摘されている。また、インパクトを財務諸表に反映させるインパクト加重会計の導入を試みる日本企業も出てきているが、企業価値向上に結び付けたと示せる事例はまだない。
- インパクトの横比較を可能にするため、生成AI(人工知能)を活用してインパクト測定ツールIRIS+(アイリスプラス)のストラテジックゴールを拡張・整理し、アウトカム・ラベルを再定義する。各企業の有価証券報告書において、再定義した183のアウトカム・ラベルに関する開示があるか生成AIで判定することで、従来難しかった客観的な横比較が容易になると考えられる。
- PBRを推計する定量モデルを構築した。具体的には、予想ROE、予想DOE(自己資本配当率)、売上高成長率、財務レバレッジの4ファクターとGICS(世界産業分類基準)セクターに加え、183のアウトカム・ラベルに関する開示有無をファクターとして使用した。ソニーグループを例として、PBRを要因分解し、「リーダーシップ教育の推進」等の一部のアウトカム・ラベルがPBRにポジティブに寄与する可能性が示唆された。
- 本アプローチは、プロンプトの改善や今後の生成AIの発展で精度が向上する可能性が高い。企業には、インパクトの定量化改善を推し進めるとともに、ポジティブインパクトが期待されるアウトカム・ラベルを中心に、価値創造ストーリーと紐づけた開示が望まれる。そして、定量化された情報を投資家との対話にも活用することで、持続的な価値創造に対する投資家の期待が高まり、株価の向上が期待される。