協働エンゲージメント、エスカレーションは「必要に応じ」を強調
-英国スチュワードシップ・コードの暫定改訂-
西山 賢吾
要約
- 英国財務報告評議会(FRC)は2024年7月22日、2026年に予定されているスチュワードシップ・コードの改訂に先立ち、改訂において優先して検討する5つの項目と、2024年10月31日より先行して暫定的に改訂する5つの項目を公表した。
- これらの中で最も注目されるのがスチュワードシップ・コードの暫定先行改訂項目の一つである原則10「協働エンゲージメント」と原則11「エスカレーション」についての解釈の明確化である。ここでは、協働エンゲージメントやエスカレーションは「必要に応じて(where necessary)」実施するものであり、毎年実施する必要も、スチュワードシップの目的に適わないものに対して行う必要もないことが明確にされた。
- この解釈の明確化により、英国において機関投資家による協働エンゲージメント、エスカレーションが後退することを懸念する声もある。しかし、むしろ実績作りが主目的の、本質的ではない協働エンゲージメントやエスカレーションが減って、本質的で高質のものが相対的に増えることが期待される。協働エンゲージメント活性化のために大量保有報告における共同保有者の定義明確化を実施する日本にとっても、今回の改訂の帰趨が注目される。
- 協働エンゲージメントとエスカレーションの解釈明確化を含め、今回のスチュワードシップ・コード改訂の理由について、FRCは報告者の負担軽減を挙げている。この理由は2025年1月より実施されるコーポレートガバナンス・コード改訂時にも挙げられた。両コードにおける「高質の規律と開示拡充の要請」と「負担軽減」とのせめぎあいの中で、後者の意見が一段と優勢になる「潮流変化」と考えられるため、併せて注目したい。