ネイチャーポジティブに向けた資金不足への対応手段として注目される生物多様性クレジット
林 宏美
要約
- 生物多様性の損失に歯止めをかけ回復基調に乗せる「ネイチャーポジティブ」実現に向け、必要な資金が大幅に不足している点が大きな課題となっている。そのため、昆明・モントリオール生物多様性枠組では、生物多様性の保全に向けた資金調達手段として、民間資金の動員を見据えて、生物多様性クレジットをはじめとした革新的なスキームの活用も視野に入れられている。
- 生物多様性クレジットとは、生物多様性ユニットの組成・販売を通じて、生物多様性に対してポジティブな成果をもたらす取り組みのファイナンス手段に用いられる。生物多様性クレジットでは、生物多様性へのポジティブな成果の有効性について第三者による検証が可能であり、取引が可能、かつ比較可能性が担保されること等が求められる。
- 生物多様性クレジットの活用事例としては、気候変動対応と生物多様性の保全を組み合わせたクレジットであるエコオーストラリア、スウェーデン農業大学のパイロット・プロジェクト等がある。オーストラリア・コモンウェルス銀行とオーストラリア準備銀行(RBA)等は、国内生物多様性クレジットを取引するデジタル取引所設立に向けた取り組みに着手している。また、グローバルに利用できる生物多様性評価アプローチを開発する動きも出てきている。
- 生物多様性の評価方法や指標の標準規格の検討を進めながら、生物多様性オフセット・スキームとの連携、気候変動対応と組み合わせたクレジットの活用等も視野に入れると、生物多様性クレジットのファイナンス手段としての今後の活用拡大が期待できよう。