AIガバナンスの概念と政府・企業・投資家による対応
-リスク調整後の投資パフォーマンスの向上に向けて-
江夏 あかね
要約
- 人工知能(AI)が急速に発展・普及する中で、リスクを管理・抑制しつつ最大限の便益を得ることを目的とするAIガバナンスの重要性が世界的に認識されてきた。
- 各国・地域でスタンスは異なるものの、政府は法規制・ガイドライン等の対応を進め、企業自身も取締役会の監督体制や指針の整備、情報開示等の対応を進めている。さらに、近年は投資家も投資先企業のAI関連リスクに着目し、原則・ガイドラインの策定や情報開示等の対応を求めているほか、幅広いセクターの企業における対応状況に着目しつつある。
- 金融資本市場の観点から、AIガバナンスを企業等にさらに浸透させていくことは、企業価値維持・向上、ひいてはリスク調整後の投資パフォーマンスの維持・向上にもつながり得るため、重要と言える。
- その意味での今後の論点としては、(1)AIガバナンスの重要性に関する理解の促進、(2)情報・データの適切な開示、(3)第三者評価等の仕組みの整備、が挙げられる。特に、1点目について、米運用大手のフェデレーテッド・ハーミーズのように企業に対してAIに関するエンゲージメントを行う投資家が近年見られるようになっている。投資家が企業に対してエンゲージメントを実施するに当たっては、AIは、情報技術(IT)面のみの課題ではなく、企業価値に影響を及ぼし得る重要な経営課題であることを繰り返し伝え、企業の経営陣における意識向上を促すことが大切と言える。