わが国上場企業の株式持ち合い比率(2023年度)
-より戦略的な視点から保有株式のマネジメントが求められる-
西山 賢吾
要約
- 野村資本市場研究所で算出した2023年度の「株式持ち合い比率」は前年度比で低下し、5年連続で過去最低水準を更新した。保有主体別にみると、損害保険会社は前年度比横ばいであったが、上場事業法人、上場銀行、生命保険会社は低下した。特に上場事業法人は前年度に比べ0.5ポイント低下し、2022年度に続き最大の保有比率低下主体となった。
- 2023年度は持ち合い解消、政策保有株式の売却が進む一方、株価の上昇で保有株式の保有金額が増加した。このため、保有株式の対自己資本比は2022年に比べ上昇した。特に、事業法人(非金融)に比べ総資産に対する自己資本の小さな金融業での上昇幅が大きかった。また、時価総額の相対的に小さい企業群や大きな企業群に比べ、それらの中間に位置している企業群において、保有株式の対時価総額比が高いという特徴が見られた。
- 国際的に見れば政策保有が一定の存在感を持つ日本の株式保有構造が「特殊」というわけではなく、政策保有をゼロにすることは喫緊の課題とは言えないだろう。しかし、株式持ち合い、政策保有株式を取りまく環境を考慮すれば、日本で開始後10年が経過したコーポレートガバナンス改革が掲げる目標を達成するためにも、現在進行中の「第3期持ち合い解消」は今後も継続すると見込まれる。このような状況においては、企業価値向上の観点を踏まえ、これまでに増して保有か圧縮かといった政策保有株式のマネジメントを戦略的に行うことが企業に求められる。