ASEANにおけるサステナブルファイナンスの潮流
-SDGs債市場とトランジション・ファイナンスを中心に-
北野 陽平
要約
- 世界第5位の経済圏であるASEANでは、長期的に持続可能な発展に向けた取り組みを推進していく上で、サステナブルファイナンスの重要性が高まっている。近年、持続可能な開発目標(SDGs)に資するSDGs債の発行が拡大するとともに、温室効果ガス排出量実質ゼロ(ネットゼロ)目標の達成に向けてトランジション・ファイナンスが促進されている。
- ASEANのSDGs債市場では、グリーンボンドとサステナビリティボンドが成長をけん引しているが、近年サステナビリティ・リンク・ボンド(SLB)への関心が高まりつつある中、2024年11月にタイ政府によりアジアの政府として初となるSLBが発行された。また、国際開発金融機関等の支援を得てSDGs債を発行する域内企業が増加している。
- 2023年10月に発行された「ASEANトランジション・ファイナンス・ガイダンス(ATFG)」の初版では、信頼できるトランジションの要素が明確化されるとともに、トランジションを進める事業体を分類する枠組みが導入された。2024年10月に発行されたATFG第2版では、トランジション・ファイナンスの定義・範囲がより明確化され、トランジション・パスウェイ(移行経路)を適切に選定するためのプロセスが示されている。
- シンガポールは、ASEANにおけるトランジション・ファイナンス促進で主導的な役割を担っており、官民連携の取り組みとしてブレンデッド・ファイナンスを強化している。また、シンガポール金融管理局(MAS)は、石炭火力発電所の早期閉鎖を加速させるために信頼性の高いカーボンクレジットを利用すべく、トランジション・クレジット連合を立ち上げ、同連合の下でフィリピンにおける試験的なプロジェクトを推進している。
- 今後、ASEANがトランジション・ファイナンスをさらに促進していく上で日本との協力強化の可能性が注目される。特に、(1)トランジション・ボンド発行に係るノウハウの提供、(2)ASEAN域内の政府等により発行されるトランジション・ボンドへの投資、(3)トランジションに資するカーボンクレジット創出プロジェクトの開発支援、の3点が期待される。