情報開示の現在地と行く先
-財務・非財務の統合による企業価値向上に向けて-
野村インベスター・リレーションズ(野村資本市場研究所 野村サステナビリティ研究センター 客員研究員) 佐原 珠美
野村證券 サステナブル・ビジネス開発部 兼 IBビジネス開発部 林田 稔
要約
- 企業経営においてリスク低減と資本効率性の向上の両立が求められる中、自社と社会の本質的なサステナビリティをいかに実現するかが問われている。企業が情報開示において優先的に取組むテーマは「国際サステナビリティ情報開示基準への対応」「情報開示における各媒体の役割の明確化と情報の棲み分け」「財務と非財務のつながり」を「価値創造ストーリーの構築・進化」であろう。
- 「国際サステナビリティ情報開示基準への対応」としては、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)/サステナビリティ基準委員会(SSBJ)基準への準拠を見据え、企業の現状と基準とのギャップ分析や、財務に影響を与えるリスク・機会、マテリアリティの見直しを行う。
- 「情報開示における各媒体の役割の明確化と情報の棲み分け」としては、自社の価値創造ストーリーを中核として重要な情報を整理、体系化したうえで、各媒体の役割や位置付けに応じた記載内容を検討する。
- 「財務と非財務のつながり」においては、企業価値向上に向けたマテリアリティを特定し、それに取り組むための戦略を策定し、得られたキャッシュフローを戦略実行に再投資し、短中長期の成長機会獲得に向けたプロセスを論理の飛躍なく、ストーリー立てて株主を含めたステークホルダーへ説明する。
- 「価値創造ストーリーの構築・進化」においては、ISSB/SSBJ基準等で求められる情報を踏まえつつ、財務と非財務の取り組みによる社会価値・経済価値の同時創出を企業価値向上に繋げるストーリーを描く。
- 重要なのは「非財務資本の強化や環境・社会・ガバナンス(ESG)の取り組みがどのように企業価値の向上に寄与するか」という投資家の疑問に対し説得力をもって応えることであり、そのためには、重要なサステナビリティ課題の財務的影響を可視化し、非財務資本やサステナビリティへの取り組みが競争優位性や収益性の向上にどのように結びつくかを示すことである。そして、投資家との対話から得られるフィードバックを活用し、さらなる改善へとつなげていくとよいだろう。