2018年の議決権行使状況と今後の注目点

野村資本市場研究所 西山 賢吾

要約

  1. 2018年6月に実施されたRussell/Nomura Large Cap 構成企業の株主総会における主要議案の賛否状況を見ると、取締役選任議案において、初めて社内取締役の平均賛成比率が社外取締役のそれを下回った。特に、業績不振や資本効率の低迷が長期化している企業、不祥事のあった企業などで、経営トップの賛成率が低い事例が増えてきたことが特徴である。
  2. 買収防衛策関連議案の平均賛成比率は2017年の67.0%から62.4%に低下した。従来より機関投資家を中心に厳しい見方がされる議案であるが、2018年は議決権行使助言会社の助言方針の厳格化や、防衛策の発動等について検討する第三者委員会の独立性に対する見方が一段と厳しくなったことなどが要因と考えられる。
  3. 機関投資家の主要議案の賛否結果を見ると、取締役選任議案に対する反対が増えたところが一定数存在する。取締役、特に経営トップの取締役選任議案に対する行使基準を厳しくしながら、投資家の企業に対するスタンスを示そうとする動きが進んでいるように見える。
  4. 2018年6月に改訂されたコーポレートガバナンスコードの内容等から考えると、2019年以降、機関投資家の議決権行使ガイドライン改訂のポイントになると考えられる論点は、独立社外取締役の増員(例えば2人以上から取締役総数の3分の1以上など)、ダイバーシティへの対応(例えば、女性の取締役の選任に関する何らかの基準設定)、剰余金処分議案(例えは、現預金を多く有しながらも配当性向が相対的に低い企業に対し、当該議案に反対の意思表示を行う)などがあるだろう。
  5. その一方で、企業から「機関投資家の議決権行使が杓子定規になっている」との意見も聞かれている。議決権行使ガイドライン通りの対応を行うだけではなく、企業の見解を聞きつつ、それが真に議案の賛否を変える必要性がある理由であるか否かを丁寧に検討することも必要と考える。
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