英国の金融規制に取り込まれる気候変動リスク

野村資本市場研究所 板津 直孝、片寄 直紀

要約

  1. イングランド銀行の傘下で、金融機関の健全性規制を行う健全性監督機構(PRA)は、2018年10月15日、気候変動の財務リスクを管理するための監督上の指針に関するステートメントについて、諮問書(以下「指針案CP」という。)を公表した。指針案CPの対象は、すべての英国の保険会社、銀行、住宅金融組合、及びPRA指定投資会社である。指針案CPは、「ガバナンス」「リスクマネジメント」「シナリオ分析」「情報開示」の4つに関する内容から成る。
  2. 指針案CPでは、対象となる金融機関は、シナリオ分析により、気候変動に関わる財務リスクの影響を想定し、情報を開示する必要があるとされている。その際に、PRAは、情報開示の新たな枠組みを創設することよりも、グローバルに普及しつつある既存の枠組みに則した情報開示を推奨している。その代表的な枠組みとして、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言が挙げられている。TCFDは、金融安定理事会(FSB)がG20からの要請に基づいて設置した民間主導のタスクフォースである。
  3. 情報開示の既存の枠組みには、TCFD提言に加えて、GRI(Global Reporting Initiative)やIIRC(The International Integrated Reporting Council)などがある。TCFDは提言の策定に当たって、これら他の枠組みを検証し、整合性についての情報を附属書の中で提供している。同時に、GRIやIIRCにおいても、TCFD提言と情報開示の枠組みの整合性を図る動きが見られる。
  4. 英国以外の各国の金融当局等も、共同して気候変動リスクへの対応を検討する動きが見られる。また、国連の責任投資原則(PRI)も、TCFDの提言を参考にしつつ、アセットマネジメント分野において気候関連情報の開示を求めるようになっている。これらはいずれも、気候関連のシナリオ分析により、戦略的計画及びリスクマネジメントを最適化し、財務的影響を提示することを、金融機関に要請している。そのためには、適切な範囲での気候変動リスクの定量化が必要となる。財務的影響を示すまでの段階的なアプローチは、TCFDの提言に則したものである。金融機関は、気候変動リスクを識別・評価・管理する上で、今後、気候変動リスクの定量化という、新たなリスクマネジメントが求められようとしている。
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